留学記 From Memphis, Tennessee
聖マリアンナ医科大学 腎臓・高血圧内科 谷澤雅彦
2019年7月・8月レポート
アメリカの子供の夏休みは長い。噂では聞いていたが長かった。というのが初めて経験したアメリカの夏の感想です。
ここには少しトリックがあり、アメリカには冬休みや春休みがありません(年末の数日、秋のfall break1週間のみ)。つまり、実質の登校日数はあまり変わらないかもしれません。長女の小学校は5月末に終了し、6月7月は丸丸休みで8月6日から2nd gradeが始業しました。
この間宿題はありませんでした(おそらく1st gradeだからか)。つまり子供達にとっては最高の夏だったと思います。好きなだけプールに入って、サマーキャンプに行って、友達と遊び、友達の家や我が家でお泊りを行き来して、小旅行に行き、毎日好きなテレビを見て、そして適度に親に怒られて、、、と、やりたい放題でした。一応日本語の勉強や読書も毎日コツコツやらせていました。
私が子供の頃は7月20日前後から夏休みが始まり、夏は朝のラジオ体操、学校の水泳教室がある一定期間あり、気がついたら残り1週間の8月末には宿題に追われ、夏の間の天気予報を一気に紹介してくれる新聞を心待ちにして、夏休みの“思い出し日記”を書いたものです。
そして9月1日の防災の日に始業となり同日訓練をしつつ昼に帰宅、という感じだったと思います。よく考えると結構短い夏休みだったな~と思います。
そしてなんだかんだで結局は夏の間も学校に行っていたと思い出しますので、家庭と学校の接点の切り離し・切り替えがアメリカと日本では大きく異なると感じた次第です。
子供の頃は大量に出た宿題は2学期の始業までに完成してればよい(期限ぎりぎりにやる物だ)と勝手に解釈していましが、現在は自分の子供達に、コツコツ毎日やることの大切さを説く身勝手な親になってしまったな~と反省しつつも、子供が気付くまでは(反論されるまでは)、このまま押し通そうと考えている今日この頃です。
夏休みは自分勝手やりたい放題していた子供達ですが、とにかく、初めてのアメリカの小学校で1年間で3日だけインフルエンザで休んだ以外全て通った長女および、child careに休むことなく通った次女には最大の賛辞を贈りたいと思います。
さて、アメリカの夏休みの構造をお伝えしたところで、夏休みに何が一番の問題となるかについて考えてみたいと思います。
一番問題となるのは親たちです・・・。アメリカ人は日本より共働きが多いとされており、かつ、日本のようにある一定の歳までは家に子供だけを置いておくのは法律で禁止されています(ここTennesseeでは11歳まで)。
自身の子供の頃を思い出すと、両親共働きでしたので小学校1年生からいわゆる“鍵っ子”で、毎日親が働きに出るのを心待ちに、かつ良い子で待ち、親が出勤した後、狂喜乱舞で勝手に遊びに行って、勝手に帰ってきたことを思い出します。
昨今は安全性の観点から、日本でもこういう文化(良いか悪いかは別として)は失いつつあります。そうするとやはり、夏休みの間に親としてどうやって子供と接するか、子供をどこに預けるか、自分の仕事はどうするか、と親が問題となってしまいます。24/7(アメリカではこれはよく使われる表記:24時間7日間、つまり“常に”という意味)で子供と一緒に過ごすのはとても貴重な時間であるのは間違いがないことですが、おそらくお互いストレスがたまります。
社会性の獲得のチャンスも減りますし、親主導での行動範囲となってしまいます(我が家のように腰が重い家族は、家での時間が伸びてしまう)。
そこで、アメリカでは“サマーキャンプ”がとても多く開催されています。夏が近づくとテレビ、雑誌、チラシにはサマーキャンプの案内がとても多く目につきます。
企業や食品メーカー、NPO、ボランティア、学校、教会などが1週間から2週間を1クールとして開催しています。泊りがけの物もありますが、朝送って帰り迎えに行く物が一般的です。
費用もピンキリで、ボランティアや教会がやるものはとても安く(例:15-30$/5days)、イベントや企画盛りだくさんのキャンプはとても高価です(例:100-400$/5-10days)。時間も朝早いものから、昼過ぎに終わってしまうものまで様々です。
我が娘たちも複数のサマーキャンプに参加しました。1-2週間毎にキャンプが変わるので、その都度新しい人間関係構築が必要となるのですが、毎日行くのが楽しくてしょうがなかった模様でした。つまり子供達には、堅苦しい『人間関係構築』という言葉は不要で、『楽しければいいじゃん』なんだな、と感じました。
もちろん子供達なりに人間関係構築をして社会性を学んでいるのですが、まずは『楽しければいいじゃん』の気持ちで入る。またまた子供たちに教えられました。
さて、親たちは子供をキャンプに送り迎えに行きます。この際祖父母が代行していることもよく目にしますし、9時開始、9時30分開始や15時お迎え、16時お迎えなどの時間でも、仕事の服で送迎に来ている親をよく見ます(お父さん多いです)。
これは私の感想ですが(何故なら迎えに来ている人達だけを見ているので)、アメリカ社会全体で、優先順位が家族・子供になっており、夏の期間は遅刻や早退が『快く認められている』のだろうな、と感じました。
つまり、『こんな長い夏休みじゃ親が困るな~』と勝手に思っていましたが、実は日本に比べ親もそんなには困ってはいない可能性が高いと感じました。
各家庭の出費はかさみますが、夏の間に子供は学校以外の様々な経験・社会性を身に付け、社会も親が時間的制約を受けるのを容認する、そして、最も耳が痛いですが父親が積極的に育児に参加している、という文化によって、この長い夏休みの設定が成立しているのではないかと考察しています。
日本ではクレヨンしんちゃんの『かあちゃん、楽しい夏休みをありがとう』、『かあちゃんの夏休みはいつなんだろう』、『かあちゃんがもっと楽しく過ごせたら夏休みはもっと楽しい』という春日部市のポスターが少し話題になっていましたが、『かあちゃん、とうちゃん楽しい夏休みをありがとう』という一言だけクレヨンしんちゃんが言うように社会が変わってくれればと切に願います。
少しだけアメリカの小学校について。7月末から『Back to School』というキーワードが町中のあちこちで目につきます。先に述べたように長い夏休みが終わりに近づき、子供達が学校に行きたくてしょうがなくなり、新学期に向けた『準備』をするぞ、という雰囲気になります。
おそらくほとんどの学区で新学期の登録はweb上で行い、ワクチンの確認、supply(文房具や必需品)の用意を事前に済ませ、学校が始まる前の週に『meet the teacher』があり、クラス発表と先生に挨拶に行きます。
我が娘の学校はmeet the teacherの日に新クラスに到着するやいなや、席順は自由に決めてよく、席も先生に向かって整然とは並んでおらず、いわゆるワークショップ形式(4人グループで向かい合い)に並んでいます。男の子・女の子が均等のグループではありません。
そもそも席順に性別を気にしていません。各方向に黒板やスライドがあるために、どこでも一番前になったり、一番後ろになったりします。これはとてもいい文化だなと思いました。
2nd gradeになり長女は新しい大きいリュックサックを手に入れ、一年間履きつぶした『瞬足』を卒業しアメリカブランドのスニーカーに履き替え、ネックレスをして、時計を付け、ホットパンツにUSAと書いたタンクトップを着て学校に行きました。
帰国まであと少し自由を味合わせてあげたいと思います。
最後にアメリカに来て14か月間の『自身の心境』は、“やっと地に足がついてきた”、という心境です。
“地に足がついた”と感じる今日この頃ですが、実は最初から地に足はついていて、自分が勝手にふわふわしていただけだと最近気が付きました。
要は図々しく、ハートが強くなったのでしょう。生活は1年以上が経過して、新規手続きなどはなく、一方、アパート、office、子供の学校、車などの更新作業がたくさんありましたが、英語問題を中心とした不慣れな対応にも十分対応ができるようになってきました(決して英語がペラペラしゃべれるようにはなっていない、図々しくなっただけ)。
さらに初めてアメリカの病院に受診したり、子供がサッカーを始めたりと、何事にも腰が思い私にとっては、新しいことを始めるということは大きなハードルでしたが、自分でハードルの高さを上げ過ぎていただけで、相手は同じ地球人であるので、ハードルは一緒じゃないか、といい歳こいてやっと気が付きました。
自身の研究も順調に進み、成果も出始め、そろそろ留学の集大成へと向かいラストスパートをかけていきます。
次回はMemphisの文化、長距離旅行+自身の心境(これは毎回)についてレポートする予定です。